永劫回帰とグラフィティ

久しぶりに外に出た。

家から歩いて三十秒のところにある落書きがいつもと違う気がして、よく見たら、どうやら知らないうちに元のはきれいに掃除されていて、その上に誰かが新しくタグ付けしてた。

 

今日は昼過ぎに起きて、AIに10年以上前のFlashゲームで無双させるみたいな動画見続けてたら夜になってた。

昨日は夢に高校時代の恋人が出てきて、夢の中ではなぜかBGMが流れてて、それがサティのジムノペディだと突き止めるまで、半日iPad眺めて過ごしてた。

明日もまた、書いては消してまた似たようなことを書くブログの記事みたいに、再度消すために転生させるツイッターアカウントみたいに、何年も前と同じような時計の針を眺めるんだと思った。

今日見つけた新しい落書きも、たぶんまた誰かが白く塗りつぶして、たぶんまた誰かがさらにその上に似たような落書きをするんだと思った。

mask

新型ペストに過剰反応し被る仮面は全ての顔を数種類のアーキタイプに簡略化し、故に見知らぬ人を故人に変える。駅ですれ違った、恋人と手を繋いだ他人は、ずっとずっと大好きだった人に似ていて、ずっとずうっと大好きだった人で、エヴェレットへの憎悪を掻き立てさせながら、ああ、未だに何してるんだろう、とため息をつかせる。映画館で交わしたキスの、人工的なオレンジジュースの香り。

290220

上書きしたい記憶も堆積する砂礫無しではただ荒野に腐りゆく死体に過ぎず、失われた過去を目前に突きつけるだけ。日高屋で聞こえる他人の会話に登場する氏名は眼球の溶けた裸体を思い起こさせ、死臭を嗅ぎながら飲み干す安酒は隠しきれなかった涙に塩辛い。倒壊したはずのそれは不在が故になお一層強く眼底に映り、叶わぬ平行世界の未来の夢は、無意味であるが故になお一層輝いて見える。ルナの名前を叫ぼうと欲す度、聞いてくれる相手もいないと気づく。過去に戻りたいと幾度も思ったけれど、戻りたい「過去」も思いつかなかった。喀血しながら死にゆけば同情も抱かれるのかもしれない、全てが正当化されるのかもしれないと思ったけれど、正当化してくれる人も思いつかない。
答えのない環状線を走り続けたところで、実際は目の前を過ぎ去るタクシーにすら追いつけず、獲らぬ狸の夢ばかりが募り募って呪となる。ここまで苦しいんだから才能の一つくらいは欲しかったのに、天は二物を与えぬからとて一物を保証すわけではないと実感する。饐えた夢の匂いは東京を凍らせていく。

Adolescence, Relapsed

東京に越してきたのは昨年のバレンタインデーなのに、一年経たぬ間にユダのキスとともにドコモタワーは倒壊し、ドアの鍵も挿さらなくなった。四月はまだ先なのに時は既に残酷で、暖かいはずの雪の華は睫毛を凍らせyahooのトップニュースになる。

精神分裂した駅チカに迷いつ反時計回りの山手線に乗りて学校へ向かう毎日は、ぐるぐるぐるぐると繰り返すくせに急いでいるときに限って止まる。夕飯は賞味期限の切れたマドレーヌに1杯3円の紅茶で、ティースプーンで計る日々が過ぎるうちに故郷などないと知る。どんどんと近づいてくる焚火を太陽と崇めても空に怒る掌などなく、額を撫でてもニキビ跡しか見つからない。すべてのアリスがアリス・リデルなわけはなく、一夜の冒険はいつもアラーム音に終わる。

御籤をひいた帰り道、乾いた線路が雨に濡らされても、元恋人に貰った時計が雨に壊されても、神はオムニシエントでもモダニストでもないから、干しっぱなしの下着が汚されるだけ。バーナム効果に喜びたいのに、タロットカードは引っ越す際に捨ててしまった。掌に釘跡を探しても見つからず、自慰に似た自傷で代替するも、次の日にはピラトになる。干上がった琵琶湖のほとりにたつ一年前の家は「ライラック」などという名前だったのに、「おやすみなさい」と繰り返す相手を探すうちに朝は訪れ、甘美だと思った別れは舌打ちに消えた。

ロクシタンの香りを放つ溶けたチョコレートをしずめたのも、干上がり残された塩田に釣り糸を垂らして嘆くのも、全て自分だとわかっていても、一歩先を走り去る電車に中指を立て、ナルシスの花をエデンに植える。

ドコモタワーの崩壊

3分前のことと3年前のことの区別がつかないし、ああ、そんなこともあったよねと現在進行形の悲劇を思い出してる。自分が最低なのはわかるし嫌悪も強いけど、つまらないメロドラマ風小説の主人公になった気がして、この風景を描写する言葉を頭の中で練り回しているうちに思考が停止して気づいたら十五分電球眺めてたせいで目が痛い。と主人公は考えました。

仮想パーティー

ゲームのVRヘッドセット被るだけで巨大ロボットのパイロットやアクションヒーローにもなれるというのに、PC開けば神殺しの英雄にもアメコミヒーローにもなれるというのに、何がこんなに退屈で虚しいのかわかんない。読みかけの本は面白かったのに、続きはあまり興味が持てない。うまく反応しないエアコンのリモコンを連打しながらイライラしてるうちに、「まあいいや」ってなってるような、そんな生活で、そういえばリモコンが行方不明になってから随分経つけど探す気もない。ベッドに潜り込んで、起きたら忘れる夢を一日十三時間も見ることに何か意味があるのかもわかんないし、こんな生活を「防衛本能」と正当化してみても、結局刻一刻と社会的に死んでいってるだけなのは否定できない。その焦りすらも見慣れ、退屈な愚痴に成り果てた。好きだの嫌いだのという感情もまた同じで、それらが自分のものなのか、ただそういう感情を持つ存在を演じているのかわからないし、どうでもいいし、指先から香るハンドソープの何にもつながらない想いに一喜一憂するのは時間つぶしでしかないのだろうと思う。大丈夫?ってLINEが来たけど、全然大丈夫なんかじゃないし、でもそう思いながらyoutube見てるし、だから多分大丈夫なんだと思う。朝から2回吐いたのも「しんどい自分」を自分に向けて演じてただけなんだろうし、その証拠に、数年前見た文化祭の下手な舞台と区別出来ない。夢のほうがまだ現実味があるし、『トワイライト』のほうがまだ感情移入させられる。あるいは現実を「無意味で退屈な夢」と見做して拒否したいんだろうか。いっそすべてから醒めたいと思うけど、醒めたところで行き止まりなのは変わらないんだろうな。

喫煙所

深夜の窮屈な殻から抜けるように降りた古びたパーキングエリアの喫煙所は、他の施設よりやや離れており、ライターのほうが何倍も明るいような電灯一本のみが点滅しながら照らしている。咥えた安タバコは大して美味くもなく、意味も持たぬままヤニ臭い溜息を内蔵に塗りつけさせる振込用紙でしかない。手に持ったままのライターをカシャリと鳴らしてみるが、それが合図だったかのように、唯一の他者である女が白い煙草を咥えるも、大げさな素振りで黒い鞄を探ったのち、「火を貸してもらえますか」と声をかけてくる。女は、わたしとお揃いの、黒いレザージャケットを着ていた。差し出したピンク色の100円ライターは白く細い指で受け取られ、カメラのシャッターのような音を立てて橙灯を生む。それは狭く薄汚い喫煙所をゆらめきながら照らし、すぐに消される。吐き出される白い煙。点滅する橙色の電灯。返されるピンク色のライターに絡む白い指と赤い爪。わたしの凭れていた不透明なプラスチック板へ、女もまた倒れ込むと、予想以上の轟音が生まれ、それにわたしたちは少し驚いた表情を見せるも、轟も驚もとどまることもなく闇へと消える。そしてそのまま、離れる訳でも近づくわけでもなく、二人はただ無言で並び立ち、 顔を合わせることも背けることもなく、喫煙所の中央にある電灯へ、共に溜息を吹き続ける。女が息を吸うたび煙草の先が明るみては暗くなるのを眺めながら、女もまたわたしのそれを見つめているのに気づく。繰り返される呼吸は少しづつ同期へ近づき、それが意識的なものなのか無意識的な現象なのか当人たちにもわからぬまま、煙を吸っては吐いていると、女は唐突に同じライターを持っていると指摘し、やはり電灯を眺めながら、わたしは同じ銘柄を吸っていることを指摘する。ジャケットもお揃いだね彼女は言い、再び、呼吸を重ねる行為に戻る。

やはり同時に捨てられる吸い殻。指が触れ合い、初めて目が合うも、電灯の瞬きにて隠され、そのまま少し気恥ずかしげに視線を逸らし合う。そして同じ方角を眺めながら歩き出すと、ふと「火のお礼」とガムを手渡され、わたしたちは当然のように同時にそれを口に入れ、そして互いの名前も知らぬくせに同じ香りの「またね」を交わして別々の場所へと消えていった。